国土交通大臣賞第2回サステナブル建築賞(その他ビル部門)
「エプソンイノベーションセンター」
建築主 | セイコーエプソン(株) |
設計者 | (株)日建設計 |
施工者 | 清水建設(株) 高砂熱学工業(株) 新菱冷熱工業(株) 三建設備工業(株) 第一設備工業(株) |
建設地 | 長野県塩尻市 |
構造 | A棟:S造 C-Cube:S造 第1設備棟:RC造 |
階数 | 地上7階 |
延床面積 | 53,372m2 |
講評
この施設は1990年代における標準的な設計に基づく研究施設と比較して、環境負荷60%削減を目標として設計された施設である。建設地が長野県塩尻市の工場敷地内であることから、冷涼な気候特性を活用して、自然エネルギー活用技術を駆使して環境負荷の低減と知的生産性向上のための執務環境を確保することを図っており、快適で心地よい室内環境を実現している。
計画設計段階だけでなく、施工段階におけるエコ活動の取り組み、竣工後の運用段階における建築主、建物管理者、運転管理者、設計者、施工者からなるフォローアップ会議によるTABやCommissioningのVerificationに相当する試運転調整、性能確認など、総合的な取り組みを実施している。
研究室・実験室は、将来の用途変更や大容量化・多機能化に対する高いフレキビリティを確保するため、無柱大空間とすると共に、実験用ユーティリティーを各スパンに配置して取り出しを容易にする平面計画を行っている。また、設備の増設・改修への対応を容易にするため、設備バルコニーを設置するなどの創意工夫がなされている。さらに、南北面を主面とする配置計画、庇、バルコニーやクライマーブラインドによる日射遮蔽、自然換気等により、空調負荷削減を図っている。中央に配したアトリウムを活用して、ナイトパージ、太陽熱の空気集熱、反射板と光ダクトを用いた昼光照明なども盛り込まれている。
1kmに及ぶ電気引き込み洞道を利用したヒート&クールトレンチ、フリークーリング、高効率熱源システムや暖冷房時の気流分布に配慮した2wayソックスフィルターダクトの採用など、徹底した省エネルギーシステムを採用している。
これに相応して、エネルギー管理体制も整っており、夏季夜間における冷凍機運転の実施、冷却水熱回収の運転制御による温冷熱合算の成績係数20の実現など、設備機器の最適運転を実現している。
色々な面で有利な条件が整った建築物であるが、全ての面でバランスが取れた優れた作品である。
なお、採用されている環境対策や省エネルギーの技術・手法の多くが、関電ビルディングと類似しており、技術・手法の開発は成熟期に達した感を抱いた。今後は設計段階での技術・手法を運用段階で正しく使いこなすツールに精力を傾けるべきであろう。