理事長賞第5回サステナブル建築賞(商業施設その他部門)
「NEXUS HAYAMA」
建築主 | 第一三共(株) |
設計者 | (株)日本設計 |
施工者 | 清水建設(株) |
建設地 | 神奈川県三浦郡葉山町 |
構造 | RC造、S造、一部SRC造 |
階数 | 地上5階 |
延床面積 | 12,836m2 |
講評
富士山を臨む逗子に計画された、約30,000人を超える社員を擁するグローバル企業の、交流、環境調和、先進性を目指した研修所施設である。施設内の屋上庭園とパティオによる連続的な植栽空間によって、建物内でも十分な緑量が感じられる。長期の研修になると大人数がこの施設で4ヶ月の間、生活することになる。
大空間のアトリウムラウンジに加えて、屋上の日射遮蔽デザインと一体化した真空管式太陽熱集熱パネル群が特徴的である。建物正面からのアプローチは、チェンジングコリドーと呼ばれるデザインであり、徐々に明るく空間が広がるストーリー性のある演出が心地よい。
建物用途から「宿泊」「会議室」「研修」という3つの空間特性を要求されているが、190室分のユニットバスと大浴場による給湯負荷の大きい「宿泊」のために、太陽熱利用が功を奏している。トップライト上部にある有効集熱面積260m2の集熱パネルで集められた太陽熱は、給湯利用を優先しながら、比較的低温温水でも効率の落ちないゼオライト式吸着式冷凍機を組み合わせた冷暖房システムを用いてアトリウムの空調にも利用した。静音で快適な環境が求められる「会議室」には放射空調を、また「研修」プログラムによって常に稼動する共用部の対策としては、アトリウム空間には自然換気を有効利用したローエネルギーの環境制御手法を採用した。また、トップライトや北面ガラスカーテンウォールからの採光を確保し、快適な空間を演出している。その他、ガラス面散水、太陽光発電、クールヒートピット、雨水再利用、等の建築と一体化した環境負荷削減技術を多く採用することで、CASBEEにおける自主評価でSランク相当の評価を得ている。
施設の稼働率は年度初めの新人研修期間中が高いなど、季節ごとに異なるため、負荷変動に対応可能な設備システムを検討した上で、中央方式熱源を採用した。エネルギー消費特性としては、面積あたりの年間消費実績が1,321MJ/m2・年であり、一般的な宿泊施設や事務所に比べて極小である。運用後のフォローアップ会議により、BEMSデータを活用した更なる省CO2も目指している。
建築デザインと環境制御デザインが一体化した優れた作品であり、高く評価したい。