審査委員会奨励賞第5回サステナブル建築賞(小規模建築部門)
「押上駅前自転車駐車場」
建築主 | 墨田区 |
設計者 | (株)日建設計 |
施工者 | (株)大林組・東武谷内田建設(株)共同企業体 |
建設地 | 東京都墨田区 |
構造 | S造 |
階数 | 地上2階 |
延床面積 | 4,048m2 |
講評
東京スカイツリーの脇に建つ鉄骨造2階建の自転車駐車場である。敷地の数メートル下に地下鉄の躯体があり、建築物の軽量化と荷重の分散化が求められる厳しい立地条件の下、正三角形グリッドシステムを採用することで構造上の課題を解決している。同時に、自転車利用者だけでなく、観光客や近隣住民の人々が楽しめる「丘」のような屋根面を構成し、そこを憩いの場やスカイツリーを見上げる見晴らし台とするなど、一般の無機質な自転車駐車場とは違った魅力を備えている。
本施設における環境面の特徴は、大きな屋根面と形状を活かした保水・蒸発・集水の機能を併せ持つクールルーフである。緑化で湿潤な表面被覆とすることがヒートアイランド抑制の一つの有効な手段であることはよく知られている。本施設では、屋根面の全てを単に緑化するのではなく、保水セラミックス(保水と蒸発)、人工木製デッキ(集水)、緑化(保水と光合成・蒸散)の3種類の屋根敷設とし、屋根に降る雨量と利用水量の収支バランスに基づいて、上水補給がゼロで雨水利用率100%となるようにそれぞれの面積を決定している。保水セラミックスは、河原の石ころのような直径数センチのシンプルな形状で窯業廃土からつくられている。保水セラミックスを百個程度ごとに網袋に詰め、単にそれらを置き並べているだけで、建築的に大袈裟なつくり込みはされていない。こういったアイディアは技術的に斬新であり、資源の有効利用や都市インフラへの負荷低減、メンテナンスフリーといった観点からも高く評価できる。
この種の取り組みでは、ある瞬間の熱画像を撮影して表面温度が低下していることを確認するに留まることが多いが、本施設では夏季数日間における周辺の屋外熱環境やコンクリートスラブ表面温度なども測定・分析している。しかしながら、建築からの排熱がなく、敷地も鉄道沿線で風通しが良いことから、本施設のヒートアイランド原因を具体的に改善したということよりも、クールルーフに込められたサステナブルな技術そのものに重点があろう。今後も、屋根保水量のバランスが年間を通じてどう変化するのかなどの多面的な検証を継続しながら、この技術を建築や都市でどのように広く活用し得るのかについて検討されることを期待したい。