IBEC 建築省エネ機構(一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)

審査委員会奨励賞第5回サステナブル建築賞(小規模建築部門)

「ゆいクリニック」

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建築主ゆいクリニック
設計者アトリエ・ガィィ
施工者(株)棚原組
建設地沖縄県沖縄市
構造RC造
階数地上3階地下1階
延床面積825m2

講評

 沖縄空港から車で45分の郊外に建つ産婦人科診療所と医者家族が住まう住宅である。箱形のRC造という沖縄の現代住宅が持っている無機的なイメージとは一線を画し、空に向かってセットバックした壁面と勾配屋根を重層しながら、土壁や木製サッシュで建物全体を包み込んでいる暖かい印象の外観が特徴的である。「住まいの居心地を医院に、そして医心を住まいに」という設計者のコンセプトを率直に表現している。
計画段階から、インド風水と中国風水の吉相を取り入れていることも特異である。建物の中央を吹抜けとした回遊式の平面形を持ち、吹抜けからも自然光を採り込み、木製サッシュの欄間の無双窓からソフトな自然通風が得られる。また、屋根や屋上庭園からの雨水は濾過層を通過後、地下タンクへ溜め、トイレ洗浄、洗車、清掃、庭の散水に再利用されるよう水の循環を創り出している。
産院の内部空間においても、木製フローリング、漆喰壁、琉球畳、ステンドグラスが入った木製建具で仕上げられ、あたかも住宅にいるような何とも言えない居心地の良さがある。自然分娩という自然なお産と適応した落ち着きのある空間となっており、入院室は吹抜け上部のハイサイドライトからの採光と換気によって、穏やかな気持ちで過ごせる。最上階に位置する住宅も、天井を一部織り上げて暖気がうまく抜けるよう断面に工夫が見られる。
設計者の経験を活かして様々な素材を利用した有効な断熱材としての環境配慮がなされている。特に、スランプ12コンクリート強度30の密実なコンクリート駆体、木舞を施したモンゴル式の土壁、赤土を石灰でかためた土モルタルなど古来の建築素材を現代技術によって高品質な環境材料に転化している。さらに食わず芋の葉っぱを利用して、ペーブメントのパターンとしたり、1階ピロティの天井に打込んで模様をつけたり、医院が自然感を大切にしている思想がディテールにまで波及している。
総じて「ゆいクリニック」は数値的に評価することは難しいが、木材や土等の自然素材を多用し、創意工夫と独特なアイデアが至る所に施された新しいタイプの沖縄建築・風土を創り出す野心的なサステナブル建築であり、意欲作として高く評価したい。

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