国土交通大臣賞第5回サステナブル住宅賞(改修部門)
「芝山町の農家」
建築主 | 個人 |
設計者 | 一級建築士事務所 大角雄三設計室 |
施工者 | (株)宮應建設 |
建設地 | 千葉県山武郡芝山町 |
構造 | 木造 |
階数 | 平屋建 |
延床面積 | 225m2 |
講評
「芝山町の農家」は、成田空港の南側、空港の着陸ルート上にある。周辺は、緑豊かな雑木林に囲まれた地域で、大屋根のかかる農家がこの地域の景観のポイントとなっていた。しかし、空港の拡大に伴い、立退きを余儀なくされたり、防音・振動防止のため解体撤去されたりして、新しい住宅が点々と建っている。
改修再生された建物は、江戸時代中後期に建てられ200年以上にわたり代々住み続けられ、働き場ともなってきた古農家である。形態はこの地域によく見られる下屋のない大屋根形式で、間口八間、奥行き五間。西に大きな土間があり、東に畳の間が「田の字」に4部屋配置されている。改修に際して家族からは、「防音対策」「3世代が暮らせること」「代々受け継いできたこの農家を、新しい世代へ残していけること」「新世代の新しい暮らしができること」などの要望があり、「古くて新しい農家」を目指して改修設計が行われた。
改修後は、建物を囲むように縁側・回廊、土間が設けられ、開口部には防音性能にも配慮した複層Low-E複層ガラスサッシが使用され、外部騒音や外気温を和らげる緩衝空間となっている。また大屋根部分は、断熱性の高い茅葺屋根を概ねそのまま再利用。茶の間部に小舞竹敷の天井を設置し、新設されたトップライトから自然光がほのかに差し込んできている。伝統的工法(茅葺屋根、漆塗り壁など)について現在の省エネ基準では評価ができないため断熱性能評価がなされていないが、現地審査ではデザイン、平面・立体計画等建築的なアプローチにより心地いい住空間ができている点が確認できた。
改修に際して古材の再利用を原則としている。そのため計画設計着手前に十分な現地調査を行った上で、改修計画が立案されている。結果として茅葺屋根を概ねそのまま再利用した他、柱・梁などの古木材は75%が再利用されている。耐震補強については書類審査時に補強効果について疑問意見が出たが、その後の追加提出された資料により安全性が確認できている。
古民家の改修には、解体・新築に比べ数々のハードルが存在する。特に工事費用、工事期間の他、断熱性能評価の困難さ、古い物への理解不足などハードルが高い。今回の改修は、施主及び家族の改修への熱意と理解、施主の同級生に古民家の設計専門家(大角氏)がいた点などの幸運がかさなり改修が実現した。本賞受賞を契機として古民家改修に対する理解が深まることを期待したい。