IBEC 建築省エネ機構(一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)

住宅金融支援機構 理事長賞第6回サステナブル住宅賞(新築部門)

「長岡の住宅」

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建築主個人
設計者フューチャースケープ建築設計事務所
施工者池田組
建設地新潟県長岡市
構造木造
階数2階建
延床面積217m2

講評

駅からほど近い中心市街地に既存店舗に寄り添うような形で建てられた2世帯住宅が本作品であるが、新潟県長岡市と言えば豪雪地帯で知られる地域である。普通に建てれば屋根から除雪された雪が窓を破壊しないように板材の雪囲いで覆ってしまうため1年の3分の1ほどの期間は1階がすっかり暗くなってしまう。だが階段を設けて高床にするのも高齢化をふまえると気になるところである。そんな難しい地域の自然との関係をまるで逆手に取るように魅力的な空間づくりに転換してしまった設計者の手腕に脱帽すると同時に、サスティナブル住宅の可能性を再認識させられるのが、3重断熱構造の高窓から傾斜屋根の小屋裏に豊かに採光した特徴あるロフト空間である。もちろんロフト空間のあちこちにあけられた穴から降り注ぐ自然光は照明エネルギーの削減にもなるが、それだけでなく1.14という低いQ値で全体を断熱された構造と床下チャンバーからの空調などと合わせて、住宅全体の一体的で安定した熱環境にも一役買い、おかげで住人は冬でも活動的になったと聞く。また既存店舗側は大屋根の軒を使って雪の侵入を避けた内路地により、夏になると可動建具の開放で心地よい自然通風を得られる設計が、それだけでなく日中に店舗側にいる両親と親子3世代の交流にも効果があるとも聞いた。イニシャルとランニングのコストをふまえた慎重な打ち合わせを重ねた設備計画について設計者へ信頼が厚いことは当然だろう。しかし何より驚かされたのは施主によるこのような空間の「使いこなし」である。ロフト空間で実際に居室として利用されているのは全体の5分の1程度であるが、その2階リビングからまるで無限に続くかのように見通せるロフトの随所にある凝った置物のディスプレイが設計者ではなく施主のセンスと聞いてさらに感心した。趣味で集めたクラッシクモダンな家具、建て替え前の家にあった古い欄間飾り、観葉植物などが1階からも垣間見えるように絶妙に配置してある。地域の自然を克服し、エネルギーの削減を目指すための工夫が昇華して、住まい手が楽しみを見つけ心を豊かにできる新たな空間の創造へと繋がったことにとても感銘を覚える作品である。

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