IBEC 建築省エネ機構(一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)

奨励賞第6回サステナブル住宅賞(新築部門)

「スタジオ・コンチェルティーノ 岡山邸」

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建築主個人
設計者一級建築士事務所 井口直巳建築設計事務所
施工者(有)天保興業
建設地東京都町田市
構造RC造+木造
階数地上2階地下2階建
延床面積233m2

講評

町田市にある「スタジオ・コンチェルティーノ 岡山邸」は一般的な住宅とはかなり違う条件の上でのサスティナビリティを実現している。それはこの住宅が夫婦とも音楽大学で教鞭をとる国際的なヴァイオリニストの建築主の要望で本格的な「音楽室」を内包しているからである。練習だけでなく主催する四重奏楽団の発表の場にも使われることから20席の客席も準備され、当然ながら防音という優先的課題がある中でさらに温度や湿度についても楽器や演奏への影響を意識しなくてはならない。一般的専用住宅に比べれば省エネルギー性を追求するには大変困難な前提だからこそ、そこで諦めずに発想の転換を果たしたことがこの住宅の秀逸な点である。上部の木造部分の倍以上ある防音のためのRC躯体を大きな熱容量の蓄熱体として利用し、演奏会の来客に対応するための大きな玄関ホールは南側大開口を外ブラインドで制御して太陽熱を有利に取得する、そして急斜面の敷地条件も味方につけ防音上有利なクールチューブから換気を行うなど、音楽室の機能向上と省エネルギー性を重ね合わせることで技術的合理性を持たせることを目指したのである。通常時と演奏会利用時の換気量と熱負荷の大きな差を考慮した設計に代表されるように、それはデータとシミュレーションに基づいた工学的なアプローチで貫かれている。サスティナブル住宅の普及のためには現代日本の標準的なライフスタイルを想定して最適化を試み、その性能を競うことも無意味ではないと思う。しかし住宅は本来それぞれの家族の異なるライフスタイルと価値観を尊重し反映すべきものである。この施主にとって音楽を愛し、それに打ち込み、その活動を通じて社会と関わることは生業であるだけでなく、生きていく上での楽しみと活力の源となるべきものだろう。こうした人間的な価値観とエネルギー消費抑制への義務感のどちらを犠牲にすることも無く、両立させようと努力する社会的意識は大変貴重かつ意義深いと言うべきである。住宅のサスティナビリティは断熱性能や設備機器への投資額によって一律に比較されるのではなく、生活者の暮らしの精神的豊さの創造との関係の中で評価されるべきことを改めて提起した作品として後進への激励になることを期待する。

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