国土交通大臣賞第8回サステナブル住宅賞(新築部門)
「阿知須・木と土の家」
撮影:田村 寛
建築主 | 個人 |
設計者 | 山口民家作事組(設計工房みよし) 三好 進 |
施工者 | 山口民家作事組(重黒木建築・家具工房) 重黒木 孝治 |
建設地 | 山口県山口市 |
構造 | 戸建・木造 |
階数 | 1/0(地上/地下) |
延床面積 | 85m2 |
講評
敷地は山口市中心部より南西方向、宇部市との境界に近い既存住宅地内にあり、海岸から1km程度の距離に位置している。平屋の戸建住宅で、軒天、壁、濡れ縁など外部仕上げにスギ材を使った外観である。主室の東西両側に窓があり、そこを風が吹き抜けるプランとなっている。
躯体は、構造材に熊本スギ、仕上材に山口スギを用い、渡りあご、雇いほぞなど大工職人が全て手加工で完成させた。また、実測による性能検証にとどまらず、特に土壁断熱の結露や熱容量に関して数値シミュレーションによる精緻な検証を行い、これを踏まえて土壁外気側充填断熱工法を開発し採用した。この土壁は県内で生産している竹木舞と壁土を、県内で職人を確保し地域の版築技術を用いて築造しており、すなわち、地域で培われた伝統的な要素と先進技術を上手く融合させてサステナブル住宅を提案している。さらに現在、各種木材を使って木製断熱ルーバー雨戸を県内木製品製造業者と共同開発しており、居住者の協力を得て試作品を設置、操作性や耐久性を評価している。瀬戸内は温暖な気候であるが、高気密・高断熱の定量的データ重視の環境計画に代わる、温熱環境保全へのチャレンジとして評価できる。
木と土をふんだんに使った温かみのある伝統的構法を採用し、かつ長期優良住宅の認定も取得しているので、省エネ基準にも適合しており、技術的な普及性も高い好事例である。加えて、戸建新築として高いCASBEE S、ライフサイクルCO2 4スターの評価結果を得ており、これに地域特性を十分理解した設計仕様である点、また、断熱性を損なうことなく快適に暮らせる工夫が随所に見られる点を考慮すれば国土交通大臣賞に値する作品と言え、今後も技術の継承に期待したい。
地元の伝統的な職人技法を継承し、地場産業と地元山林の保全を通じて地域経済の循環を果たし、さらには地球環境保全にも役立つことを目標としたプロジェクトとのことだが、シンプルかつ明快な心地よい設計にも「住まいづくりに完成はなく、維持管理とともにニーズに合わせた増改築を行う」という設計者の誠実なスタンスが感じられた。